平井雷太のアーカイブ

意味あるインターンシップ 2004/4/5

2003年5月より毎日新聞『新教育の森』に連載された記事の第34回目をご紹介します。

2004年(平成16年)4月5日(月曜日)

意味あるインターンシップ
−好きな仕事でなくてもいい−

 私の教室に通っていた26歳の女性が、高校教材をやっていたとき、「給料はいらないので、週1回だけ先生の教室で働かせてもらえないでしょうか?」と言い出しました。引きこもり経験をもつ彼女にとって、それは社会に出るための準備になると思い、二つ返事でOKしました。これは一種のインターンシップ(見習い社員制度)です。学生から即、社会人になることに強いストレスを持つ人や、自分のやりたいことがわからない人などが、さまざまな職業を体験することは極めて意味のあることだと思います。

 私は20代のときに7回の転職をしました。いま思えば、それは私にとってのインターンシップ体験だったのだと思います。大学に行ったのも、したい仕事がなかったからとりあえず大学に行ったのだし、就職に有利というだけで経営学のゼミをとり、就職を決めるときには、銀行に就職するか、ヨーロッパヘの駆け落ちをするかの選択に立だされ、先の見えない後者を選びました。

 そして今、自分の好みだけで選んだら、決して選ぶはずのない教育にかかわる仕事をしています。この仕事にたどりつくまでは、何をやっても、嫌になるとすぐにやめてしまい、友人からは「コロコロ虫」と言われ、ひとつの仕事が続けられないことがコンプレックスになっていました。しかし、今では「セルフラーニング」という天職かもしれない仕事に就いているのですから、振り返れば、一つひとつの転職にはすべてに意味があり、必要な経験だったのだと思っています。

 村上龍は著書「13歳のハローワーク」のなかで、「仕事=好きなこと」という労働観にたっていますが、私は、好きなことがなくてもいいと思うのです。とりあえず、ご縁で仕事をしてみれば、どんな仕事であっても、その仕事を通じて、一人ひとりが照らしだされ、そこには必ず学ぶものや、気づくことがあります。自分が望まなくても、人から望まれてやる仕事もあるでしょう。しかし、「好き・嫌い」だけで仕事を選んでいるときは、自分が期待しているほどの達成感は得られにくいのですが、出会いとご縁で仕事をしていると、自分の想像をはるかに超えたものとの出合いがあったりします。

 ですから、やりたいこと、好きなことを無理やり探さなくても、その人に合った職業が訪れてくる可能性があるのです。また、企業にとっても、インターンシップ制を取り入れることで、多様な人材と出会うチャンスと同時に、開かれた職場へと変わっていくきっかけにもなると思います。

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