平井雷太のアーカイブ

「教えない」とできる 2004/1/13

2003年5月から毎日新聞『新教育の森』に連載された記事の第24回目をご紹介します。

2004年(平成16年)1月13日(火曜日)

「教えない」とできる
−インタビューで育つ書く力−

 一人ひとりに表現する力が育っていくことはとても重要です。しかしながら、「書くことは嫌い、苦手」と思っている方が結構いるのです。これも学校教育の弊害でしょう。しかし、どうしたら容易に書けるようになるのか、わかりませんでした。ところが、思わぬところから書ける方法を発見しました。それは『インタビュー』です。

 それまでも「聞く力を育てる上で、インタビューは重要だ」と思っていましたから、インタビューのモデルを示し、やり方を教えていたのですが、教えようとすればするほど、「インタビューは難しい、インタビューは特別な訓練をしないとできない」と伝わり、「自分には無理だ、できない」と受け取る方が多かったのです。

 ところが14年前、ある講座で、何も教えることをせず、2人で組んで聞く側になる人を決め、まず片方が相手の話を聞き続け、話をメモにとり、20分たったら、聞く側を交代し、その場でお互いが聞いた話をB6カードの表面に収まるようにまとめることをやってみたら「書くことは苦手。最近、文章なんて書いたことがない」と言っていた人まで、その場にいた20人全員が書くことができていたのです。

 その後、これが「インタビューゲーム」という形になり、大人と子ども(小4以上、留学生と日本人、大学教授と主婦というようにさまざまな組み合わせでのインタビューゲームが、各所で行われるようになっていきました。

 このとき、書けないと思っていた人がどうして書けてしまったのでしょうか? 一つにはメモに取った情報を即処理したからです。入力した情報を人が読んでわかるように書く。うまく書こうとせず、話すように書いたら、書けていたのです。もうひとつは、自分のことを書くのではなく、相手になりきって、相手のことを書いたからです。ですから、仮に相手が話していないことでも、「自分にはこう聞こえた」と素直に自分の主観で書き、書いたものはその場で相手に見せて、了解をとったため、安心して書けたのです。

 さらに、書けたもう一つの理由はこの場には評価がなかったことでしょう。あるべきインタビューがあるわけではありませんから、どんなインタビューでもOKだったのです。

 このように、自分のことを書くよりも、まずは人の話を聞くこと、人が読んでもわかるようにすぐにまとめるという一連の作業から、「表現力」が育つことを実感したのです。家庭のなかでは親子で、学校では総合学習等々で、「インタビュー」を活用することで、誰にでも備わっている「聞く力」「書く力」が育っていくように思うのです。

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