2003年5月より毎日新聞『新教育の森』に連載された記事の第12回目をご紹介します。
2003年(平成15年)9月8日(月曜日)
ペナルティーと罰則の違い
−「今度はやろう」という気持ちを援助−
いつもはきちんと決まった時間に来る子が、「遅れる」という電話もなく、1時間過ぎても2時間すぎても教室(塾)に現れません。「どうしたのかな」と思って、家に電話をかけ、「今日はどうしたの? 宿題やってある?」と聞いてみると、「いいえ……。やってからすぐ行きます」と言うのです。宿題をしていないままで教室に来るいいチャンスだと思い、「やってないままおいで」と伝えました。
たいていの学校では、先生が一方的に宿題を出して、やってこなければ居残りをさせてまでも、その宿題分をやらせたり、立たせたり、恥をかかせるような状況が当たり前にあります。しかし、そんなことをやっても、やらない子はしませんから、こういうやり方が効果的とは思えません。
それより何よりも、もともと「学び」はやらされるものではないのですから、やっていかないと罰を与えられるという「強迫観念」によって子どもが宿題をするというのは、どこかおかしいのです。
ですから、罰則ではなく、子どもが自分で決めた宿題をやってくるようになるには何をすればいいのかと試行錯誤の結果、「自覚と援助とペナルティ」を組み合わせたシステムが生まれていったのです。
私の塾では、宿題は子ども自身が決めて、毎日プリントをやった結果を記録表に記入しています。やっていない日は空白になるのですが、かといって、「だからダメな子」と言われたり、責められたり、恥をかかされることはありません。宿題をやっていなくても叱られない体験を積むことで、やらないと叱られるという「強迫観念」や「恐怖心」「やらされている学び」から解放されていきます。
そして、自分で決めたことができていない記録表を見て、子どもは課題が何であるかに気づいていくのです。できない状態がI〜2週間続くと、記録表の空欄を目の当たりにして、子どもは自分の状況を自覚します。
しかし、もちろん自覚しただけではできるようにはなりません。たとえできなくても子どもは毎回、宿題のプリントを持ち帰るのですから、「今度はやろう」という気持ちはあるのです。そういうときこそ援助が必要ですから、「やってこようと思うから持ち帰るんだよね。今日持ち帰って、また1枚もできなかったら、次回教室に来たときに10枚やる(ペナルティー)って決めない?」と、私は提案します。
たいていの子どもは私の提案に、「えっ!10枚。それは大変、5枚ならいいけど……」と枚数の交渉をしてきますが、「やってくることが前提での約束だったら、枚数は何枚でもいいんじゃない?」と言うと、「わかった。ペナルティーは20枚でも30枚でもいいよ!」と。子どもがやる前提になって、自分のやることをとらえた瞬間です。
「状況を自覚できる記録表」「約束に寄りそってくれる人」「できないときのペナルティ」の三つがそろって、はじめて自分で決めたことができるようになっていくのです。