2003年5月から毎日新聞『新教育の森』に連載された記事の第13回目をご紹介します。
2003年(平成15年)9月15日(月曜日)
「学習」始めるのに遅すぎはない
−大人も一緒に学んでいます−
いままで私の教室を通過していった生徒は、下は3歳から上は78歳までで、この24年間で2900人ほどになりますが、そのうちの約1割は大人の生徒でした。ですから、幼児がプリントをやっている隣の席で大人の方が一緒になって生徒として、プリントをやっているのは普通の光景です。
教室に見学に来られた方がそれを見て、「ここには、どうして大人の生徒がいるのですか?」「大人がどうして小学生や中学生が学習する教材で学ぶのですか?」と聞かれることがよくありますが、最初のうちは私も不思議でした。幼児から高校生が学ぶプリントで、特別に大人用のものがあるわけではないのですから、どうして大人の方が「私も生徒になっていいでしょうか?」と言ってこられるのか、私も理解できなかったのです。
そこで、「らくだ教材」で学んでいる方々にそのわけを聞いてみました。すると、「自分は算数が苦手と思っていたのですが、息子がやっているのを見ていて、このやり方だったら、私でも確実にできていくような気がして、挑戦してみたくなりました」「子どもが楽しそうにやっているので、どうしてそんな気分になれるのか、私も体験してみたくなったのです」「いままでも、ひとつのことをコツコツと続けるのが苦手でしたから、このプリントでそんなところが克服できたらと思ったんです」等々と言われるのです。
もしも、これが授業形式の塾であったなら、大人の方が生徒になるなんてまずなかったでしょう。大人の場合、わからないことがあっても「教えて!」とは、なかなか言えません。大人としてのこけんにかかわるからです。それよりもまず、はずかしいという思いが働きますから、小学生の内容を大人が学習するなんて、まずしないでしょう。
しかし、子どもであっても、自分で学ぶものを決めて、わからなくても、教えてもらうのではなく、自分で解こうとしている姿を見て、「ここの子どもたちは大人として扱われている」「このやり方なら恥をかかなくてもすむ」「自分のペースで学ぶことができる」と判断されたのだと思います。
計算だけができるようになることを目的にせず、計算が身につくプロセスで集中力、継続する力、根気、自己決定力、壁を越える力等々という、生きる上での大切な力が育っていくことが伝わったからこそ、大人までもが生徒として、らくだ教材で学習するようになったのだと思うようになりました。