2003年5月より、毎日新聞『新教育の森』に連載された、第6回目の記事をご紹介します。
2003年(平成15年)6月23日(月曜日)
評価を人になんてやってほしくない
−「自分に×」その抵抗がなくなれば−
私が教室を開くとき、「黒板は使わない」「授業はしない」「不登校の子どもだけを集めない」とか、いくつか決めたことがあるのですが、そのIつが「私が採点しない」でした。というのは、私が20年以上前に、2年間だけ、K数学研究センターで働いていたことがあるのですが、新入社員研修で、K指導者の教室で採点助手をしているときに、「先生、この問題、あっているのに、どうして×がついているの!」と子どもが言っている場面に遭遇したことがありました。
その教室には採点助手が3〜4人いて、ものすごい速さで採点していたのですが、その声を聞いて、「私の丸つけミスではなかったか」と、一瞬、ドキッとしている私がいました。社員で来ている私のミスで、先生の信用を落としてはまずいと。
その後、採点にこんなに気を使ったことがないほどの慎重さで、丸つけをしていたのですが、そうすると今度は採点するスピードが遅くなります。そんなことをしながら、「私が子どものやったプリントの丸つけをするって、何かヘン!」と思ったのです。私が採点することで、私の採点があっているのか間違っているか、その評価を子どもがする側になったことで、私が不快だったのです。
そこで、当時まだ健在だったK式の創設者であるK会長に間いてみました。
「K式は自学自習ということを言っているのですから、子どもに採点させるべきだと思うのですが、どうして、子どもに採点をさせないんですか?」と聞くと、K会長は、「そんなことができる子が何%いるか」と言うのです。子どもを信頼していないのだとすぐに思いました。子ども自身の学習なのですから、子どもがした採点結果に、大人が文句を言うこと自体が問題です。
ですから、私がK数学研究センターをやめて自分で教室をはじめたとき、一番試みたかったことは、「私が採点をしない」「子どもに採点を任せる」ということでした。そうすると、子どもは自分で丸つけをすることになりますから、自分の評価を自分ですることになるのです。
その結果、わかったことは最初からきちんと丸つけができる子はほとんどいないということでした。間違っていても○をつける、答えを見ないで○をつける、間違っている答えを直して○にしてしまうと、ほとんどの子がそんなことをしていましたから、それが自然なのかもしれません。そして、自分に×をつけることに抵抗がある子どもが結構いるということでした。
自分に×をつけることに抵抗がなくなれば、それは問題の自分を受けいれられたわけですから、自分で自分の欠けているところ、いまの自分の課題が何かがわかったということなのです。
自分のできる部分だけでなく、できない部分を見ることで、できないことが確実にできるようになっていく。これが一人一人に潜んでいる自然学習力に気づける秘けつなのかもしれません。 (つづく)