平井雷太のアーカイブ

ストップウオッチで育つ決定力 2003/6/16

2003年5月より、毎日新聞『新教育の森』に連載された、第5回目の記事をご紹介します。

2003年(平成15年)6月16日(月曜日)

ストップウオッチで育つ決定力
−ペースは一人ひとり違う−


 私の教室では、一人ひとりが自分のストップウオッチを持ち、それを使って学んでいます。先生だけがストップウオッチを持ち、ヨーイドンでクラスー斉に同じプリントをやらせ、やり終えた順に先生が「何分何秒!」と生徒に伝えていくと、人より速いことがいいこととして伝わってしまいます。私が一人ひとりの子どもたちにストップウオッチを渡しているのは、速くやることが目的ではありません。

 子どもが自分の学ぶプリントを先生から与えられていては、学習が受け身になり、与えられるものだけをこなすようになります。それではいつまでたっても自主的に学ぶようになりません。そこで、子どもが自分で学ぶものが決められるようにと、点数以外の評価基準を考えました。

 仮に与えられた問題が全部できたとしても、スラスラできた子と、ものすごく時間がかかった子では、力の差は歴然としています。同じできた状態でも、時間をかけて解かないと答えが出ないのは、身についていないのですから、できたことにはなりません。

 そこで、スラスラとできる状態の時間を「目安時間」と設定したことで、ストップウオッチが必需品となったのです。一枚のプリントをやり終えるのに要した時間は、自分のいまの力そのものです。ですからやり終わった時間と、プリントごとに明記してある「目安時間」と照らし合わせれば、次に進んでいいのか、あと何枚同じプリントをやればいいのかを子どもが判断できるのです。

 例えば、目安時間5分のプリントは5分59秒までの時間でできれば合格ですが、15分23秒かかったとします。週―回の通塾の場合、次に教室に来るまでの6日回の宿題を、「1日1枚として、同じプリントを6枚」と子どもが決めることができるのも、ストップウオッチで時間を計って、自分の状態を知り、「目安時間」という「学習が体得できた時間」というものを設定したからでした。

 そして、自分がどんな状態にあるのかがわかってくると、確実にできる状態にならない限り、子どもは先に進みたがらないこともわかってきました。何度か同じプリントを繰り返していれば、必ず合格することがわかりますから、できない状態のまま先のプリントには進もうとはせず、同じプリントを30回も40回も繰り返すようになるのです。かといって、絶望せず、力のつけ方を学び、「壁を越える力」を自らはぐくんでいるのです。

 こうやって、ストップウオッチを子ども自身が使うことで、子どもの学ぶプリントを私が与えるのではなく、子どもが自分の学ぶべきプリントを自分で決められることが実現していきました。

 このようにして、同じプリントを自分からすすんで何回も繰り返す子どもたちを見ていると、どんな子どもであっても、一人残らず、確実な力を身につけたがっていることを私は確信するのです。           (つづく)

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