平井雷太のアーカイブ

問われれば 話せない人いない 2004/1/26

2003年5月から毎日新聞『新教育の森』に連載された記事の第26回目をご紹介します。

2004年(平成16年)1月26日(月曜日)

問われれば 話せない人いない
−「どう伝わった?」と相手に確認する−

 先回までに、インタビューゲーム(相互に20分間話を聞き合い、それをまとめる)には「聞く力」「書く力」が育つ要素があると書いてきましたが、今回は「話す力・伝える力」について書いてみたいと思います。

 「20分間、みんなの前で話をしてください」と突然言われると、多くの人が「20分も話すことがない」「人前では話すのは苦手」とちゅうちよします。しかし、どんなに話しベ夕な人でも、話すことなどないと思っている人でも、相手に問われながら話すと、誰でも20分間、話をすることができてしまうのですから、もともとどんな人にも「話す力」が備わっていることがわかります。「話せない人はいない」「思いや意見のない人もいない」ということが立証されるのです。

 インタビューゲームの「問われて話すおもしろさ」は二つあります。一つは、思わぬ自分を発見することがあるということです。相手からの意外な質問に答えることで、思わぬ自分が引き出されることがあり、普段、決して話さないようなことを話し出す自分におどろくことがあります。そしてもう一つは、自分が話したことが相手にどう伝わっているのかというおもしろさです。

 1対多数で行う「公開インタビューのときに、一番よくわかるのですが、同じ話をしても、それぞれに受け取り方が違い、私を見る角度も人によって異なり、そこには無数の「私」が立ち現れてくるのです。公開インタビューをして、みんなそれぞれに話の受け取り方が違うということを何度も経験するうちに、人は自分の都合のいいように人の話を解釈し、自分が聞きたいようにしか、人の話を聞いていないのだということに気がつきました。

 いくらこちらに伝えたいことがあっても、相手の中にそのことについての関心がなければ、言葉は耳に届かず、素通りしてしまいます。「あれだけ言ったのに、何もわかっていない」「言うことをちゃんと聞いてくれていない」ということが普通であるとわかったことで、普段でも話し終えた後に、「いま、どう伝わった?」と相手に確認するようになったのですが、そういうことが「上意下達にならない情報の伝え方」なのではないかと思います。一方的に話して、相手にどう伝わったのかを確認せず、自分の話を相手がわかったものと決めつけるという関係では、そこにコミュニケーションや相手を理解しようとする気持ちが、生まれることはないでしょう。

 自分の言葉がどのくらい相手に伝わっているのかということを振り返り、「聞く力」「書く力」と同様に、自分の「話す力・伝える力」をつけていく方法として、このインタビューゲームは役に立つツールだと思うのです。

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